◇相続

 

◇相続業務

 

 

相続とは、土地、家屋などの不動産や預貯金といった有形財産だけではなく、その家の無形財産としての「歴史」や「慣習(及びそこに内蔵されるものとしての伝統)」や「家督」を引き継ぐということでもありますから、決してお金だけの問題ではないのですが、そうはいっても遺族の安定した生活の手助けとなる遺産の行方はやはり気になるところです。

 

 

相続業務にあたっては、法律に照らして手続きを進めることが大原則です。しかし、人という生き物は、紙に書かれた条文だけで割り切れるほど合理的な生き物ではありません。

 

 

 

例えば、生命保険金や死亡退職金の受取人が指定されている場合では、それらは相続遺産の対象とならないのが原則(ただし、みなし相続財産として相続税の対象にはなります)ですが、他に目ぼしい財産がないなどのケースで、これらを相続の対象としてみてはどうか、とか、あるいは、受取人の特別受益として持ち戻し(遺産の中に組み込むこと)してから、分割協議してみてはどうかといったアドバイスをする。

 

 

また、あるいは、各々の家に伝わる「仕来たり」や地域の「習わし」といった、「不文の慣習法common law)」にも十分配慮し、それら「伝統の知恵」を参照とした、杓子定規とならない、血の通った相続とするのもわれわれ行政書士の務めであるように思います。

 

 

 

【自筆証書遺言、秘密証書遺言がある場合】

 

 

 

相続が開始した場合、まず最初にやるべきことは遺言の捜索もしくは検索です。自筆証書遺言や秘密証書遺言などが見つかる場所としてよくあるのは仏壇、タンスの引き出し、書斎、貸金庫などですが、遺言により財産を多く取得する者や、遺言者の友人、信頼できる専門家(遺言で遺言執行者に指定された行政書士、司法書士、弁護士など)に預けておく場合も少なくありません。 

 

 

 

【公正証書遺言がある場合】

 

 

 

公正証書遺言の場合は、遺言書の原本は公証役場で保管しているので、必要に応じ、公証役場の「遺言登録検索システム」を利用して、全国のどの公証役場からも公正証書遺言の有無を確認することができます。

 

 

※ただし、東京都内の公証役場で作成された遺言書を除き、「遺言登録検索システム」で検索できるのは平成元年以降に作成された遺言書に限られます。

 

 

 

公正証書遺言がある可能性が高いと思われる場合、私ども行政書士は、代表相続人の方からお預かりした委任状(書式は当方で用意)を使い、公証役場において公正証書遺言の検索ならびに謄本を請求し、その写しを受領することができます。

 

 

その場合、代表相続人の委任状の他に、被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍謄本、改製原戸籍謄本)、被相続人との続柄がわかる戸籍謄本(通常は相続人の現戸籍)、相続人の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)、代理人(行政書士等)の身分証明書(運転免許証、行政書士証票など)及び印鑑が必要です。

 

 

 

【相続人の確定及び相続関係説明図の作成】

 

 

 

公正証書遺言がある場合は、遺言に書かれた内容通りに遺産を分割すればいいのですから、原則としては、相続人の調査(公正証書遺言を作成する際に取得した、遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本等で既に確定済み)や遺産分割協議の必要がなくなり、遺産名義変更等の手続きは驚くほどスムーズに進みます。但し、既述した通り、自筆証書遺言、秘密証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認とその手続きに必要な戸籍等の収集が必要です。

 

 

 

その一方で、遺言がない場合は、相続手続きに要する書類の量は膨大となり、手続き自体も煩雑を極めます。

 

 

欧米諸国と比較した場合、わが国では「遺言を残す」という行為がまだまだ慣習として根付いていません。従いまして、ここでは遺言がなく、遺産の分割を確定するための遺産分割協議書を作成する場合や、協議書に基づき実際に遺産を分割する方法について述べていきます。

 

 

 

【遺言がない場合における相続手続き】

 

 

 

依頼人様(相続人様)から正式に業務を受任し、各種委任状を頂いた後の相続手続きは、相続人を確定することから出発します。「誰が相続人となるか」という、ご遺族にとっては自明であろうことを何故わざわざ調査しなければならないのでしょうかそれは金融機関(預金払戻手続)や法務局(不動産名義変更手続)といった第三者機関に対し、相続人であることを書面で証明する必要があるからです。

 

 

 

まずは当職が相続人様に代わり、職務上請求書を用いて亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍(死亡記載のある現戸籍又は除籍謄本、改製原戸籍謄本等)及び、住民票の除票(被相続人の登記簿上の住所と本籍が同一の場合は不要)、相続人様全員の戸籍謄本(被相続人との続柄がわかる現戸籍)及び住民票(本籍記載のもの)を取得して相続関係説明図を作成します。相続関係説明図はその後の銀行払戻手続きや不動産名義変更手続きにおいて必要となります。

 

 

 

【戸籍収集に潜む落とし穴】

 

相続人に誰がなるかを確定するには、被相続人の両親の戸籍謄本(既に両親が亡くなっていて戸籍が空になっていれば除籍謄本)を取る必要があります。これは、被相続人が結婚するまでは両親の戸籍に入っていたからであり、両親の戸籍に入っている間、つまり被相続人の結婚前に、ある女性との間に子供ができ、その子を認知している可能性があるからです(認知すればその旨がその戸籍に付記されています)。

 

 

被相続人の子が相続人となる場合は比較的楽ですが、被相続人に第1順位の子、第2順位の直系尊属(父母、祖父母)がおらず、第3順位の兄弟姉妹が相続人となる場合や、その兄弟姉妹の一人あるいは全員が既に亡くなっている場合などの戸籍収集はかなりやっかいです。

 

 

その場合、被相続人の両親の戸籍を遡って取得し、他に被相続人の兄弟がいないかどうか調べる必要がありますし、もしいた場合で、その兄弟が既に亡くなっている場合には、その方に子(代襲相続人)がいるかどうかを調べるため、亡くなった兄弟の出生から死亡までの連続した戸籍を取り寄せる必要があるからです。兄弟が複数いる場合は更に大変です。

 

 

また、戸籍は、法改正や、婚姻、転籍などでたびたび編製されますから、戸籍の読み取りに慣れていないと他の相続人(例えば認知した子や養子縁組した子)を見落としてしまい、後で大変な騒動となる場合がありますから、ここもやはり業務に精通した専門家に任せるほうが安心です。

 

 

【ここでも遺言が大活躍】

 

 

なお、正式な遺言がある場合は戸籍収集に関する手間が劇的に減り、多くの場合、被相続人の死亡事項の記載のある戸籍(除籍)謄本と、被相続人と相続人との続柄を証明する戸籍謄本(多くの場合、相続人の現戸籍謄本)や、受遺者であることの証明(住民票)だけで足りる場合があります。

 

 

遺言がある場合は、既に遺言者の意思が明白ですから、他に相続人がいないことまで戸籍で証明する必要がなくなるためです。

 

 

 

◇相続財産の調査及び相続財産目録の作成

 

 

 

【不動産調査】

 

 

 

当職が代表相続人の方から委任状と固定資産税納税通知書をお預かりし、その不動産が所在する市町村役場の税務課に行き「名寄せ帳」を請求します。名寄せ帳とは、当該市町村にある不動産についての、所有者ごとの一覧表であり、未登記建物であっても固定資産税の評価を受けている不動産であればすべて記載されるので、不動産の相続財産調査には大変便利です。

 

 

取得した名寄せ帳をもとに、被相続人名義の固定資産評価証明書を交付してもらいます。固定資産評価証明書は、後に相続人全員で遺産分割協議をする際、提示される「財産目録」の根拠となりますから、取得漏れのないよう細心の注意が必要です。

 

 

なお、固定資産税納税通知書が見当たらない場合や見つけるのが面倒という場合には、われわれ行政書士がご依頼人様から委任状をお預かりして固定資産評価証明書を役所に請求することも可能ですし、またそのほうが迅速かつ確実に入手できます。

 

 

次に、最寄りの法務局(不動産の所在地を管轄する法務局でなくてもOK)に行き、固定資産評価証明書に記載された不動産についての登記事項証明書(登記簿謄本)を取得します。財産目録には、財産の根拠となった固定資産評価証明書と登記事項証明書のコピーを添付する必要があるからです。

 

 

 

尚、必ず必要という訳ではありませんが、不動産全部事項証明書を取る際、後々の名義変更手続きを見越して「公図」をとっておくと、不動産名義変更を司法書士に依頼する際の手続きがスムーズにいきます。なお、法務局での全部事項証明書取得には、相続人の委任状は必要ありません。

 

 

 

【金融機関の残高調査】

 

 

 

亡くなった方の通帳もしくは、銀行からの郵便物等を手がかりに、被相続人名義の銀行及びその支店を割り出し、被相続人の死亡を伝えます(この時点で口座は凍結されます)。

 

 

次に、金融機関に対して預貯金の残高証明依頼書及び相続届(解約・払戻に関する銀行所定の書類)を請求しますが、これらの書類の請求には代表相続人の委任状、被相続人の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本、被相続人の通帳、キャッシュカード、受任者(行政書士等)の印鑑証明書と実印、身分証明書(運転免許証、行政書士証票・会員証等)の提示を求められます。

 

 

必要事項を記入した上で「残高証明依頼書」を実際に銀行に提出する際には、被相続人の死亡が確認できる戸籍(除籍)謄本、相続人代表者の戸籍謄本及び印鑑証明書、受任者(行政書士等)の印鑑証明書及び実印が必要となるので忘れずに用意します。

 

 

このとき、同一銀行内の全店舗における被相続人の全ての取引(普通預金、定期預金、投資信託、保険契約などの)の有無、及び、取引のある場合はその残高も調査してもらい、残高証明書あるいは評価証明書として発行して貰えるようその旨を行員に伝えます。

 

 

それともうひとつ重要なことは、払戻は基本的に振込なので、相続人全員分の銀行所定の振込用紙も忘れずに入手しておくということです(銀行によっては代表相続人のみへの振込しか認めないところもあるので注意)。

 

 

 

被相続人が証券会社や信託銀行と取引していた場合も、預貯金の残高証明書発行と同様の手順で証明書の交付を受ける必要がありますが、注意したいのは、証券会社等での相続手続きは、預貯金の場合と違い、解約ではなく、原則、口座移管(ただし、当該証券会社を含む、他のどの証券会社にも特定口座がない場合は、新たに相続人名義の口座を開設する)による名義変更となりますので、それに使用する書類も予め取得しておきます。

 

 

 

その他、有価証券や自動車、貴金属、骨董品などの動産のある場合も、それらの時価評価が客観的に明らかになるよう財産目録に記載します。

 

 

これらの資料に記載された具体的な数字を根拠にすれば、相続人全員がおおよそ納得できる相続財産目録を作成することができます。

 

 

 

◇遺産分割協議を行うタイミング

 

 

特段の期限はありませんが相続税申告を前提とした場合、その期限が相続人が相続開始を知った時から10か月以内ということから、その期限に間に合わせるためにもなるべく早い方が良く、実際には、四十九日の法要等のタイミングで遺産分割についての話し合いがなされることが多いです。

 

 

また、この時までに、不動産登記申請手続きを司法書士に依頼するときのための見積もりや委任状を司法書士に作っておいてもらい、遺産分割協議書の調印時と同時に、相続人に署名捺印してもらうための準備をしておきます。

 

 

 

尚、司法書士に見積もりや不動産登記申請に使う委任状を作成してもらう際は、相続関係説明図、実際に不動産を承継する人についての住所、氏名、職業、生年月日を書いたメモ、及び、その方の住民票、被相続人の死亡記載の除籍謄本、被相続人の死亡記載の住民票除票、登記事項証明書、固定資産税評価証明書が必要となります。

 

 

 

【遺産の分割方法】

 

 

 

遺産分割の方法には、

 

 

1.現物分割・・・最も一般的な分割方法で、土地建物は妻に、預金は長男に、株券は二男にといったように、現物で各相続人に分割する方法や、一筆の土地をいくつかに分割して各相続人に取得させる方法などがある。

 

2.  代償分割・・・遺産の中で、土地や建物などの現物は長男などの共同相続人の一人が取得し、その取得者に、現物を取得できなかった他の相続人に対する債務を現金などで負担させる分割方法。現物取得者の資力の有無が問われる。

 

3.  換価分割・・・遺産を金銭に換価し、それによって得た代価を相続人全員で分割する方法。実務では、主な財産が不動産しかなく、すぐに売却を行うような場合によく行われる。現物分割、代償分割が不可能な場合にとられることが多い。

 

4.  共有分割・・・各相続人が自分の持分を決め、その持分に応じて相続財産を共有する方法。土地家屋などの相続財産を売却する場合、揉めるケースが多い。

 

 

 

といった方法がありますが、それぞれに長所、短所がありますから、どういう方法で分割するのが一番いいか、具体的な状況に応じて相続人同士でよく話し合うことが大切です。

 

 

 

【遺産分割協議書の作成】

 

 

 

※遺産分割協議が成立したら、代表相続人様の包括的委任状(書式は当方で用意)に基づき、委任された相続による遺産分割及び相続手続きに必要な書類の作成等、遺産分割に係わる一切の手続きを当職が行います。

 

 

 

「遺言」に関するコーナーで、「有効な遺言がある場合は遺産分割協議の必要がなくなる」と私は書きましたが、現在判明していない財産が今後発見された場合、いったい誰がそれを取得するのかとか、「財産の2分の1を長女に相続させる」などといった、漠然とした内容の遺言の具体的な取り決めをするためにも、遺言がある場合であっても、相続人が一堂に会して協議をし、それを行政書士などの専門家が遺産分割協議書として作成することは、後日の紛争をあらかじめ防止するという意味で大変意義のあることです。

 

 

 

◇預貯金の名義変更又は解約・払戻手続き

 

 

 

不動産の所有権移転登記申請の前に金融機関の相続手続きを先に済ませます。何故なら、通常銀行等では窓口で戸籍等のコピーを取って原本はその場で返してくれますが、不動産登記では1~2週間ほど戸籍等の書類を法務局に預けっぱなしとなるからです。

 

 

 

銀行等の相続手続きとしましては、実務上は名義変更よりも解約による払戻の方法をとるのが一般的です。

 

 

 

原則としまして、故人の口座のあった支店で解約・払戻手続きをするのですが、銀行によっては「相続センター」といった名称の部署を設け、相続手続きを一手に管理している場合もありますから、そのような場合は、故人の口座のあった支店にこだわることなく、どこの支店でも解約・払戻手続きに応じてもらえる場合があります。

 

 

 

なお、解約・払戻手続きの前における、残高証明書を請求する際に、「相続届」といった名称の、相続人全員の署名押印を必要とする書類(印鑑証明添付)および、相続人への振込先を指定する振込用紙をあらかじめ入手しておくことが手続きをスムーズに行うためのコツです。

 

 

 

金融機関での預金解約・払戻には、相続人全員の委任状、当事者全員の印鑑証明書を付した遺産分割協議書、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本及び住民票除票、相続人全員の現在戸籍謄本及び住民票(本籍記載)などの基本書類の他に、相続関係説明図、銀行所定の相続届、振込用紙、被相続人の通帳、預貯金証書、キャッシュカード、通帳やカードを紛失した場合の紛失届などが必要となります。

 

 

 

基本的にその場での解約・払戻はされず、数日後に銀行内部で解約・払戻手続きを行い、実際の承継人宛に解約済み通帳、利息計算書及び振り込み受付書が送付されてくるというのが通常の流れとなっています。

 

 

 

戸籍謄本や住民票、印鑑証明書(まれに印鑑証明書は原本提出が原則の銀行もある)などの基本書類の原本はコピーを取った後で返してくれますがあらかじめ原本の返却希望を言って置かないとたまにそのまま持っていかれてしまう場合があるので注意しましょう。

 

 

 

◇報酬手数料

 

 

手続きの難易度によって変わってきます

 

 

相続コンサルタント(行政書士)に委任した手続きが、遺産分割協議書の作成までで済む場合、あるいは、思った以上に負債が大きいため、家庭裁判所への相続放棄手続きや限定承認手続きが必要となる場合、また、相続人間の協議が調わず、家庭裁判所での調停や審判が必要となってくる場合、相続した不動産を早急に売却したい場合、相続税の申告及び納付を前提とした手続きの場合、など、個々のケースに応じて報酬額が異なってきます。

 

 

そのようなケースでは弁護士、司法書士、税理士といった専門家への報酬が基本報酬とは別に必要となるからです。

 

 

 

◇相続税の申告が不要な場合の報酬は安くなるの?

 

 

 

相続税の申告、納付を必要としないケース(遺産総額が基礎控除額の枠内にとどまる場合)では、遺産分割協議書の作成までの手続きで目的を達成できる場合がほとんどですから、戸籍などの収集に要した実費を除けば、報酬も行政書士(遺産分割協議書等の作成)と司法書士(不動産の登記手続き)への基本報酬だけで済む場合が多いです。

 

 

 

相続税に関して付け加えますと、平成25年の税制改正により、相続税の基礎控除額が大幅に減少(従来の約4割減)したことで、相続税の課税対象者が増加傾向にあるということに特に注意しなければなりません。

 

 

 

※改正後の相続税基礎控除額の算出式 3000万円+(600万円×相続人の数)

 

 

 

また、相続する不動産をすぐに売却したい場合であっても、一旦は相続人への名義変更が必要ですので、その場合はその独占業務人である司法書士に手続きを依頼することになります。その場合の司法書士への報酬額は当該司法書士事務所の内規に従います。