◇任意後見

 

◇任意後見業務

 

 

成年後見制度には、法定後見と任意後見とがありますが、ここでは家庭裁判所が後見人を選任し、審判の確定とともに開始する法定後見については割愛させていただき、今現在は判断能力に問題のない方が、将来判断能力が低下した場合に備えて、自らの意思で任意後見人を指定し、代理権付与の契約を交わし、それを公正証書にする任意後見制度について記します。

 

 

 

【任意後見人て何をする人?】

 

 

 

任意後見制度では、任意後見人は、

 

 

①本人を代理して金融機関との取引や費用の支払いなどをする「財産管理」

 

 

②本人に必要な介護契約や、入所する老人施設、医療機関などとの契約を行う「身上監護」

 

この二つの「法律行為」を業務として行うと規定しています。

 

なお、後見人は、介護や送迎や病院への付き添い等の「事実行為」をすることができませんので、「身上監護」にはそれらの事実行為は含まれません。任意後見人が委任者の食事や身の回りの世話をする場合は、準委任契約(民法656条)として別個に契約を結ぶ必要があります。

 

 

 

任意後見人は契約書に書いていない仕事をすることはできませんから、任意後見人になる者にお願いしたいことはきちんと代理権目録に明記しておかなくてはなりません。

 

 

 

【誰に頼めばいいの?】

 

 

 

任意後見制度は、委任者(本人)と受任者とが契約するものです

 

 

本人が契約の内容をきちんと理解し、契約の意思を表明できることが確認できたなら、それは本人の判断能力に問題がないということですから、後は本人の自由な意思に任せて後見人を誰に頼むかを決めることが重要となってきます。

 

 

家族に頼むも、友人に頼むも、行政書士や司法書士などの専門家に頼むも、本人の自由です。

 

 

しかし、後見業務とは思った以上に多忙かつ煩雑であり、専門知識のみならず、多大な時間と労力の消費を強いられる業務ですから、専門家に任せたほうが本人も家族も安心であることは間違いありません。

 

 

将来、委任者が遺言や相続に関心を持った場合にも、これら専門家は強い味方になることができます。

 

 

 

【任意後見人に取消権はあるの?】

 

 

 

家庭裁判所の選任する法定後見人及び本人(成年被後見人)には、日用品の購入や日常生活に関する行為を除けば、判断能力の低下を理由とした取消権があります。しかし、後見開始の審判等を待たずに成される任意後見契約の場合におきましては、委任者(本人)、受任者(任意後見人)そのいずれにも取消権がありません。受任者は代理権目録に記載された内容についてのみ、代理権を行使できるだけです。

 

ただし、委任者(本人)の行った契約が、相手方の脅迫や詐欺などによる場合、あるいは消費者契約法で定める取消の対象となる場合は、これらの法律行為を取消すことができます。

また、特定商取引法で規定するクーリングオフの対象となる取引であれば、(法定期間内であれば)まったく理由なしにこれを取消すことができます。

 

 

 

◇任意後見人への報酬はいくらぐらい?

 

 

 

専門家が任意後見人となる場合、月額の報酬を定める必要があります。その場合の額は、任務の難易度や個別具体的なケースにもよりますから一概に「いくら」とは言えませんが、委任者と受任者とでじっくりと話し合い、常識的なところで折合いをつけるのが良いでしょう。平均的な目安としては、定額報酬額(継続的な管理業務に関する報酬)で30000円位が相場となっているようです。

 

 

 

◇任意後見には3つのタイプがある

 

 

 

【即効型】

 

 

契約締結時にすでに委任者の判断能力が不十分な状態で任意後見契約が締結され、時間を置かずに受任した任意後見人が家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立を行います。ただし、任意後見監督人の選任には通常2~3か月を要します。また、「即効型」は委任者の判断能力がすでに低下してから契約しますから、委任者が契約の内容をよく理解していないなど、契約そのものの妥当性が問題となる場合があります。

 

 

 

【将来型】

 

 

まだ委任者の判断能力が正常な時点で任意後見契約をひとまず締結しておき、委任者の判断能力が低下した際に、家庭裁判所への任意後見監督人の選任申立をし、任意後見監督人が選任されて初めて任意後見が開始します。即効型と同じく、任意後見監督人選任まで2~3か月を要することで、その間の委任者の保護に不安が残ります。

 

 

【移行型】

 

 

このタイプがもっともお勧めできるタイプです

 

 

委任者の判断能力の低下が発生するまでの間に、本人の財産管理や身上監護を行う事務委任契約と任意後見契約とをセットにして契約しますが、この時まだ任意後見は開始しません。受任者は本人の代理人として財産管理や身上監護などの事務処理を行うにとどまります。

 

 

本人の判断能力が低下し、事理弁識能力が不十分となった場合に、受任者は家庭裁判所に任意後見監督人の選任を請求し、任意後見監督人が選任されて初めて任意後見が開始します。

 

事務委任契約と任意後見事務の内容に大きな違いはありませんが、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任され任意後見が開始すると、その時から任意後見人が行う事務を任意後見監督人がチェックすることになり、その点が大きく異なります。

 

結論として、委任者の判断能力低下前も、判断能力低下後も、両方カバーできるこの「移行型任意後見契約」が委任者にとってもっとも安心です。

 

 

ただし、このタイプでは、事務委任契約(財産管理契約)と任意後見契約との2契約をすることとなりますから、公証人費用も2契約分となり22,000円(1契約11,000円×2)が必要となります。

 

 

この他、正本2通(委任者と受任者分)、謄本1通(法務局分)、登記手数料、収入印紙代が別途かかりますので、証書の超過枚数の有無にもよりますが、「移行型契約」ではおよそ35,000円~40,000円の総費用(行政書士への原案作成料とは別に)が必要となります。

 

 

 

 

【任意後見契約締結までの標準的な流れ】

 

 

任意後見人を誰にするか、どのタイプの後見契約にするか、(専門家に業務を依頼する場合の)受任者の報酬はいくらにするか、などを決めたら、委任者は戸籍謄本、住民票、印鑑証明書を、受任者は住民票、印鑑登録証明書(又は運転免許証、パスポート等顔写真のあるもの)を取り寄せます。

 

 

書類がすべて揃ったら、受任者は連絡の上、公証役場に出向き、公正証書内容の打ち合わせや、実際の契約日、契約場所、公証人費用等の確認を公証人と行います。

 

 

 

契約日を決めるのはこの打ち合わせのときです。公証人に必要書類を提出し、文案の協議をし、公証人が契約書案と見積書の作成を行ったら、公証人の空いている日程を押さえてもらい実際の契約日を決めます。

 

 

 

なお、この打ち合わせには本人は不在であっても構いません。ただし、契約日には委任者と受任者双方が契約の場に同席しなければなりません。

 

 

 

【契約当日】

 

 

 

公証人法で定める管轄区域(都道府県の区域)内であれば、自宅以外にも入院先の病院や有料老人ホーム等まで公証人に出張してもらうこともできますが(出張費は別途要)、原則は委任者と受任者が一緒に公証役場に出向きます。当日持参するものは、委任者の実印(事前に試し押しをして陰影照合しておく)と公証人費用の二つだけです。

 

 

 

委任者に対して、公証人による条文や契約書の読み上げ時間が少々長くなることをあらかじめ伝えておくと、委任者に「心の準備」ができて契約がスムーズにいきます。

 

 

 

公証役場に保管される原本に当事者双方が署名押印し、契約が無事終了すると、契約当事者(委任者と受任者)に交付される正本2通と、成年後見登記用として法務局に送付される謄本1通が作成されますので、後は公証人費用や登記手数料を支払って手続き完了となります。